あぁ、あわら贅沢。
あわら贅沢とは?
【あわら贅沢な人】アートディレクターの大井佳名子さん
2018.12.29

 

数年前に芦原温泉駅で目に飛び込んできた、あわらの観光ポスター。 
キャッチコピーは、あっ!わっ!らっ! 
ほかに貼られている幾多の広告物とはちょっと違う、 
楽しくてお洒落で細部まで丁寧につくってあって 
何よりもそのデザインから溢れるほどの「あわら愛」が感じられた、

そんなポスターの制作者が今回の「あわら贅沢な人」大井佳名子さんでした。 
職業は、アートディレクター。活動の中心地は、東京。 
あわら生まれあわら育ちの彼女はいったい、

どんな道をたどって自分の夢を叶えたのでしょうか。

手掛けられたお仕事の一部とともに、どうぞお楽しみください。 
 

―――今は、どんな会社にいらっしゃるんですか? 
大井:THINKR(シンカー)は、一言で言うとデザインの総合制作会社ですが、 映像やグラフィックの制作以外に、自分たちでメディアをつくったり、アイドルのプロデュースをしたり、それらを組み合わせたプロジェクトとして映画をつくったりと、 ジャンルを超えたクリエイティブを提供しています。 ユニークなのは、部署が動物のアイコンで分かれている事。私はグラフィックデザインで猫のチームです(笑) 

他には映像、空間プロデュース、音楽アーティストやイラストレーターのマネジメント、ドキュメンタリー映像チームなど、ぜんぶで40人ぐらいいます。 
特色としては、渋谷、原宿、秋葉原のカルチャーに強い会社で、チームの特性を生かして組み合わせたコンテンツをアウトプットしている、多種多様な人の集まりです。 自社アーティストだと女の子ラッパーの「あっこゴリラ」は、今すごく人気ありますよ。 

最近のプロジェクトで面白かったのは、円谷プロとコラボして作ったレストラン「怪獣娘」。怪獣のコスプレをした女の子たちが踊る、エンターテイメント空間です。 スタッフがキャストとしてアイドルを結成したり、空間プロデュースチームが空間を、映像チームがプロモーションビデオを、イラストレーターがコスチュームデザインや空間イラストレーションを担当しました。 
 

※Samantha Thavasa 2018 秋冬キャンペーン
https://www.youtube.com/watch?v=71UZfCR2gSc

 

―――そういう世界に憧れたきっかけがあったんですか? 
大井:もともと中2の時にテレビで見た広告業界が舞台のドラマに影響されて。東京がキラキラして見えたのもそうですが、クリエイターって純粋で誇りのある仕事だなと思って(笑) ただ実際は漫画しか描いてない暗い中学生で、運動もできなくて美術部でずっと絵を描いてたんです。

ある日、高2の時にデッサンの勉強をはじめて、美術室で「アイデア」という雑誌を拾って、その特集が「ロシア・アバンギャルド」と「ナイキのクリエイティブ」の特集で。カッコイイ!って感動して。 特にロシアは強烈な表現が多くて、当時のロシアは識字率もまだ低かったので、ビジュアルでわかりやすく強く伝えるという姿勢のデザインで。なかにはナチス反対を命懸けで訴えかけるジャーナリスティックな作品もあったりして。メッセージを伝えることを信念を持って真摯にやる、という仕事は、「もしかしたら人生をかけて続けられるかもしれない」と思ったんです。 

―――そこから本格的に。 
大井:そんなことに影響されて、金津高校2年と3年の文化祭で、デザインしたTシャツやステッカーを販売するお店を始めたんです。 ありきたりな展示がつまらなくて、当時のフォトショップを美術部のみんなで覚えて。 教室を半分に区切って、展示のスペースは真っ白、販売のスペースは真っ黒にして、照明も手作りして、床も鏡張りにしたり… 。友達やいつも部活に来ないようなメンバーも面白がって参加してくれました。 

―――いい高校ですね。そこから愛知県立芸術大学のグラフィックデザインコースに入学されて、卒業後、東京のデザイン業界へ。 
大井:東京で最初に入った会社はファッション広告の製作が多い会社で。伊勢丹やアナスイや化粧品のビジュアルをつくる会社でした。 モデルもフォトグラファーも一流だし、撮影はNYでした。すごい敷居が高くて、東京の地理もわからなくて、明日の朝までに何案件もの画像を一度にさがして、みたいな厳しい世界で。 その世界を理解するのに時間がかかったので、提出しても1枚も採用されなくて次の日も徹夜、家帰れないっていう。 すごく辛かったけど、グローバルなファッションブランド広告のキービジュアルをつくるにはどんな姿勢な考え方が重要かを学ぶことができました。 

その後、そこから独立されたアートディレクターのところでアシスタントデザイナーとして働きはじめました。一番多くを学ばせて頂いた師匠で、とても勉強になりました。 代表は当時からスターで忙しくて、私は要領が悪かったので仕事が終わらなくて…。銭湯行って机の下で寝てたりした日もあったり、2週間ぐらい机に座りっぱなしの日もしばしばでした。(笑) いま思えば、コピーがあってビジュアルがあって、展開までトータルでデザインするマインドが息づく、数少ない会社でした。 私の今を決定づけた貴重な時代だったし、選択だったなと思っています。 

―――いっけん華やかな業界ですが、やはり、下積み時代は厳しいんですね。 
大井:さらに1社を経て、2013年から現在のTHINKRの所属に。デザイナーとして入社したのですが、ここ最近は企画やコピーに専念して、デザインをお願いする事も増えてきました。やはり、自分で提案して細部までこだわりを持てる事と、他のチームを組み合わせたキャンペーン構造を提案出来る事が特色ですね。 私の部署は「SLEEQ」というチーム名です。女性向けの、少しビビッドなデザインが多いと思います。 
 

※榮太樓總本鋪 200周年記念キャンペーン
http://www.eitaro.com/200th/

 

―――あわらの観光ポスターは、どんなきっかけで? 
大井:観光協会さんからの依頼で、コンペで採用頂きました。 旅する男の子と女の子があわらで体験したことを思い出してるっていう、対になってる2種類のポスターです。 それぞれの視点で語りながら、「巡り方」を伝えるものにしました。温泉だけじゃなく、その周囲にあるものも含めて体験してもらうことが観光として大事じゃないかと思って。あわらには、たくさん楽しいことが詰まってるよっていう。 

これの取材で初めて旅館『べにや』さんにも入らせてもらったんですが、本当にその素晴らしさに驚きました。不幸にも火事で焼失してしまいましたが、東京の高級ホテルなんかよりもずっと素敵な、グローバルに通用する場所が、自分の実家のすぐそばにあったんだと。これを伝えなくちゃ、っていう使命感が沸きましたね。 
 

 

―――ふるさと・あわら市の好きなところは何ですか? 
大井:
実家が温泉街で電器屋をやってるんですが。温泉街をつくってる人たちが家族みたいにつながってるところがいいなと思います。町全体がおっとりしていて、暮らすのにあたたかい街だと思う。野菜や果物も美味しいし、東京にはない、やさしい時間の流れがある。それを味わいたくて帰省してるところがあって。「ゆったり」した気持ちになります。自分の性格にも、そういう風土の影響を受けてると思いますね。 

―――あわらの人って、どんな人だと思いますか? 
大井:
個人的な感覚ですが「満たされてる人」が多い気がします。暮らしの幸せを既に感じてる人が。ずっとここにいたいな、っていう想いが当たり前にある気がしますね。 温泉もあるし、海の幸もあるし、自然と暮らしが一体になってるのが尊いな、と。 あと例えば、子どもたちの成長を地域全体で見守っていく風土があるので、 「ここで子どもを育てたい」って思える環境が間違いなくあると思います。 太陽がどこから登ってどこに沈むとか、冬になると鳥が渡っていく風景とか、今は何が旬の食べ物で、とか…東京では忘れがちなので。美味しいものをどう美味しく食べるかをお互いに伝え合いながら伝承していることも、本当に豊かだと思います。 

―――ご自身は、どんな子どもでしたか? 
大井:
男の子っぽい子どもだったので、田んぼの用水路に魚を獲りにいくのが大好きで、家の水槽は魚だらけでした。暮らしの身近な所に自然があって、空がとても大きかった。 そういう時間の流れを経験できることが、人間としての価値観やスタンスに大きく影響するんじゃないかなって、東京に来てから特に思います。少なからず、自分のクリエーションにも影響しているところもあるかもしれないです。制約に縛られすぎず「大きく」考えられるところとか。少しは、几帳面になった方がいいんですけど。(笑) 

―――今後、ふるさとであるあわら市や福井県とどういうふうに関係していきたいですか? 
大井:
私は福井のクラフトに興味があって、友達も伝統工芸の職人さんとプロダクトをつくったりしてるので、ライフワークとして、福井県と長くかかわれるプロジェクトを構想してます。ひとつは、北陸の新しい観光客向けのメディアをつくりたい。職人さんとか観光にかかわってる人を取材して、短い動画にして配信するんです。 その地域でしか出会えない人と関係できるツールとして、海外に向けてもPRしたいなと思ってます。クラフト・ツーリズムという、クラフトを巡る旅。 ここ最近注目されていて、京都や金沢では整備されてるけど、北陸全体ではまだまだ。 そういうことが好きな人があつまる拠点やメディアを福井県発でつくりたくて。 拠点は地元の人が憩える場でもあり、働く人のコワーキングスペース的な機能も持たせたいなと。 

―――大井さんが思う、あわら贅沢とは? 
大井:
あわらには都会でみんなが無意識に求めてるものが、ある。「空が広いこと」とか「人や町のあたたかさ」とか。 ひと晩、トンボ帰りで帰省するだけでもリフレッシュできるし。 
 

※野村アセットマネジメント「Funds-i」広告キャンペーン

 

―――そんなあわら市を大井さんがブランディングするとしたら?
大井:
地元のライフスタイルを想像できるような旅を提案しますかね。その時間を体験することに価値があることを伝えたいです。わざわざ来てもらうためには、そこにしか無いコトを感じてもらえないとダメだと思うので。全然違う文化の、例えば海外の人に巡ってもらって、それを動画にして、ポイントを解説して…みたいな。新幹線の駅もできるし、地元に何か貢献できたら嬉しいですね。

 

 

 

あぁ、あわら贅沢。