あぁ、あわら贅沢。
あわら贅沢とは?
【あわら贅沢な人】実り菓子「栗のみ堂」店主・宇都宮妙衣さん
2019年3月18日

栗のみ堂

 

東京の町田市、静かな住宅街の一角にたたずむかわいいお店。

2018年4月にオープンしたお菓子ショップの

オーナー兼パティシエが、あわら市出身の宇都宮妙衣さんです。

こどものころからお菓子づくりに没頭してきたひとりの女性が、

地元の食材をふんだんに使いながら手作りする、絶品スイーツの数々。

そこには、あふれんばかりの「あわら愛」が込められていました。

甘い匂いに包まれながらのインタビューを、

どうぞ、お召し上がりください。

 

―――お店を開店されたきっかけは?

宇都宮:2015年ぐらいから各地のファーマーズマーケットやマルシェに手作り菓子で出店していたんですが、そもそもきっかけは故郷あわらにあって。金津創作の森で秋に行われているクラフトマーケットの募集をたまたま帰省してる時に見て、「出たい!」と思ったんです。クラフト作家さんや地元のカフェなど飲食店さんが多く出展される秋のイベントなんですが、ちょうど栗がとれる季節だし、自分がつくる栗のお菓子が通用するかどうか腕試しもしてみたかったので、地元の朝倉梨栗園さんの栗を使わせてもらったオリジナルの「栗のみパイ」を出品しました。自家製の渋皮煮とアーモンドクリームをパイ生地で包んだもので、既製品の甘いだけの栗ではなく、手をかけ本来の風味をいかした栗が自慢です。じつは大阪にある「チェルシー」というパティスリーで働いていた時にマロンパイがあって、それがすごく美味しくて、その作り方が自家製だったので、「私もいつか、こんなパイをつくろう!」と思ってたんです。

 

―――栗のみパイ、美味しそうですね!反響はいかがでしたか?

宇都宮:オーブンで焼きたてを出してたんですが、まず、オーブンの香りで人がわらわらと集まってきてくれて、買って食べた人が「美味しかったから、もう一個」って言いながら数分後に戻って来てくれたり。全然売れなかったらどうしよう、って思ってたんですけど、とても盛況で。1時間に24個しか焼きあがらなかったんですが、それが一瞬で売り切れたんです。テーブルに並べる前に売り切れちゃう、みたいな。2年目からはオーブンを2台にして。毎年、来てくれるお客様もいてくれます。

 

―――すごい!

宇都宮:創作の森での販売がすごく盛況だったので、東京のファーマーズマーケットとかでも出店しはじめました。そこで自信を得て、一念発揮、自宅でお店を構えることにしました。小麦粉とかも福井のモノなんですが、福井産のモノってあんまり東京で見かけなくて、なので、ここで「小さなアンテナショップ」的に福井を味わってもらえたらな、と思っています。

 

栗のみパイ

 

高校卒業後、大阪城の横にあった製菓学校に入学。その後、29歳ぐらいまで何店かの飲食業で経験を積まれ、結婚を機に、旦那様のお仕事の都合で東京へ。ちなみに旦那様は大野市出身で、高校の後輩なんだそうです。

 

―――宇都宮さんが、お菓子づくりに目覚めたきっかけは?

宇都宮:ものごころついた時からお菓子をつくってましたね。あんまり既製品のお菓子を買ってもらえない家だったので、お腹がすいた時には自分で小麦粉と卵と砂糖をまぜてつくって食べるみたいな。自分のためにつくり、家族や友達にあげるためにつくり、テスト勉強から逃れるためにつくり(笑)。学校の勉強は授業中にするもの!と思っていて、家ではお菓子ばかりつくってましたね。

 

――――その時から地元の材料で?

宇都宮:いえ、そのころはそんなに果物とか使ってなくて。なんか、科学的にお菓子づくりって楽しいな、という感じで、小さい頃はホットケーキ、成長するにつれてクッキー、パウンドケーキ、ロールケーキ、シュークリーム…、と色々試していきました。高校はデザイン科だったんですが「絵では食べていけないな」と思って、絵は趣味にしておいて、何か違うことを勉強しようと思って、高1・高2の春休みに大阪の製菓の専門学校に体験入学したりして決めました。その後、本格的にパティシエを目指しはじめたころから、ゆくゆくは地元の材料を使ってみたいなぁと思いはじめました。

 

―――ご実家でとれたモノも何か材料として?

宇都宮:いま使ってるのは、ピーナッツとブルーベリーとイチジクとカボチャかな。あ、キウイも。

 

ここで、お客様がお菓子を買いに来られました。

 

お客様「このお店、最近できたんですか?」

宇都宮「はい。10か月前に。今日はちょっとお休みなんですが」

お客様「あ、そうなんだ。すいません」

宇都宮「いえいえ、でも大丈夫ですよ」

お客様「いいんですか?ありがとう。わぁ、お芋が気になるわ」

宇都宮「はい。これ地元の福井県あわら市産の“とみつ金時”というお芋で」

お客様「へぇ。おいしそう」

宇都宮「こちらは、とみつ金時が入ったチーズケーキ、ガトーショコラ、キンカンが入ったパウンドケーキ、ラムレーズンサンド、ラムレーズンの生チョコの5種類セットになってます」

お客様「じゃあ、これください」

 

お客様が帰られて、インタビュー再開。

 

インタビュー

 

宇都宮:もともと飲食業で働きはじめた時から独立したいと思ってて。自分の感性をフルに活かせる場があるといいな、と。じつはいずれは、創作の森から車で10分のところにある実家で、民宿カフェみたいなことをやるのが夢です。農業体験やお菓子づくり体験をしてもらえる民宿です。

 

―――かなり地元好き、実家好きなんですね。

宇都宮:そうですね、実家を愛してます。なんにもないから自分で何かをつくろう、と思えたところがよかったですね。山に入れば山菜がとれたし、畑でとれた野菜はそのまま食べれたし、お菓子もつくったし、ミシンで服をこしらえたり。中3の時に金津創作の森ができて、学校の選択授業で陶芸コースをとって、創作の森の陶芸の先生のところに釜を見せてもらいに行ったり。そもそも金津には「たたら製鉄」という鉄づくりの歴史があるので、ものづくりの伝統がある町なんです。そういえば、父が趣味でたたら製鉄をやってましたね。家の庭に小屋があって、父もちょっと変わった人なんですが(笑)、赤泥や海岸の砂から鉄分をとりだして、製鉄して、還暦から毎年、ねずみとか十二支をつくってたりしてますね。

 

―――宇都宮さんの原風景は?

宇都宮:こどものころのいちばん最初の思い出は、ある日の昼下がりに洗濯物を干してたお母さんから「猟銃をもった猟師さんと猟犬が家の近所にいるから、危ないから家に入っときなさい」って言われたことですね(笑)。今はもちろん禁猟区になってますが、それぐらい山深いところにある実家です。草むらでおままごとしたり、草笛吹きながら学校行ったり、キイチゴや山菜取りとか。父と友達と家の窓から見えた隣村の山に登ったり。ただ登るだけ(笑)。

 

―――地域のつながりは、ありましたか?

宇都宮:9軒しか家がなかったので全員知り合いですね。戦後に開拓してできた村で、もともとはお祭りなど無かったのですが、30年ぐらい前からは納涼祭りと称して毎年、村人みんなで集まっています。大阪で働いてた時も、できるだけ山の近くに住むようにしてましたね。生駒山のふもとの四条畷とか。

 

―――都会に住んで気付いた、あわらの良さは何でしょうか?

宇都宮:ゆったりしてること。自然が多いこと。人として自然に生きられること。実家の山の山菜とか、母がつくった野菜とか。タラの芽がすごく好きです。都会のスーパーに売ってるものと全然違うんです。やわらかくて甘さがあって。

 

お土産

 

―――お店ではできるだけ地元の材料を? 

宇都宮:東京でお店をするにあたって特長を出すために福井の地元のモノを、と考えました。とみつ金時とか栗とか、あと三国の蜂蜜とか、実家でとれたものとか。卵も福井地鶏のたまごで。

 

―――お客様と福井の話になったことは?

宇都宮:ありますね。「このまえ福井に行ってきたよ」って言うお客様とか。福井のお米を置いてたら、おばあちゃんが「旦那が福井出身なのよ」とか。「福井ってどこ?」っていうのも、よく言われます(笑)。福島とか福岡はわかるけど、って。そんな時は地図で教えてあげながら、「芦原温泉にも入りに行ってくださいね」ってさりげなく宣伝してます。

 

―――あわらを愛されてるんですね。そんな宇都宮さんのあわら贅沢とは?
宇都宮:
加工されたものがないかわりに、自然にあるものを工夫してつくる楽しみがある。与えられ過ぎないからこそ、創り出す余裕があること。ですね。

 

―――ゆとりや、余裕がある?

宇都宮:はい。例えば教育環境についても「福井県は学力が高い」という結果が度々でてきますが、先生方の指導ももちろんあるのでしょうが、1クラスの人数にゆとりがあるため目が行き届くというのもあるのではと思います。市の人口減少は決して喜ばしい事ではありませんが。 私自身、保育園・幼稚園・小・中学校と、ずっと金津町立のところに通ってましたが、中学生でも塾へ通う子は少数派だったように思います。部活動も活発で忙しかったですが、それでも学校できちんと学べていたと思います。 待機児童などという言葉もなく、幼稚園は小学校の1階廊下を抜けた奥にあったので、みんな幼稚園からは小学生と共に集団登下校していました。また学区が広かったので、スクールバスが出ている地域もありました。 そういったところから、福井の高い共働き率もきていると思いますね。
 

創作の森

 

―――これからの展望は?

宇都宮:やってみたいことは。最終的にはあわらに帰りたいですね。あわらに帰って、あわらに来てもらえるようなことをやりたいです。創作の森に宿泊施設をつくればいいのに、って前々から思ってます。私、創作の森の入居作家になりたかったんです、結婚した頃に。それでいろいろ調べてたらクラフトマーケットの募集を知ったんです。

 

―――かなり創作の森がお好きなんですね。

宇都宮:できた当時、「自分が好きなものができた」って思いました。絵を描いたり、何か創ったりが好きだったので。だから、もっと創作の森に面白くなってほしいです。森の中に宿泊施設をつくって、栗林や果樹園、畑を併設させ、農業従事者の方に指導してもらうとか、あわら丘陵地域の生産者の方の元で体験させてもらうとか。 そうして手にした食材で、2日目はお菓子や料理を作る。3日目にはそれを盛り付ける器を製作するなど。 創作の森をアートに限定するのもひとつだと思いますが、アートと聞くと途端に興味を無くす、というか敷居が高く感じてしまう方もいるような気がします。土で食の器を作るという行為は原始的ですし、木を削って箸やカトラリーを作るというのも、暮らしに近い分思い出に残りやすいと思います。 非日常を求めてやって来る場所でもあると思いますが、既製品が溢れる現代では、日常に自作の何かを取り入れる事が非日常につながるような気がしますね。
 

―――あわら愛にあふれるご提案、ありがとうございます!
宇都宮:
あ、最後に。すでにご存知かもしれませんが、とみつ金時の生産者で株式会社フィールドワークスの吉村さんが、ゴ・エ・ミヨのテロワール賞を受賞されたようです。私も同郷として、とても誇らしい気持ちになりました!

 

とみつ金時パイ

あぁ、あわら贅沢。