あぁ、あわら贅沢。
あわら贅沢とは?
新しい「農」に挑戦できる土壌がある、というあわら贅沢。
2018年1月5日

あわら市は知る人ぞ知る農業王国。このサイトでも、高級トマト「越のルビー」や糖度バツグンのサツマイモ「とみつ金時」などさまざまな農産物を取り上げてきました。しかし、そのどれもが勝手に育ったものではありません。かつて誰かがたったひとりで、時には仲間たちと一丸となって「新しい名産品をつくろう!」と立ち上がったからこそ、今があるのです。そして、その新しい挑戦を助けたあわら市の生産者や豊かな自然風土の存在も忘れてはなりません。今回は、「農の挑戦」をテーマに、新旧いくつかの事例をご紹介します。

 

トラクター

 

温泉水でトマトをつくる、神栄アグリテックの挑戦

2017年の秋、ひとつのおもしろい話題がニュースになりました。「芦原温泉の温泉水で育てたトマト『ゆのしずく』販売開始」。あわら市に本社を置く神栄アグリテック株式会社のこのかつてないチャレンジは、およそ3年間の試行錯誤を経ていよいよ実を結び、試験販売ではありますが市内の温泉旅館で販売が始まったそうです。この何ともあわららしいプロジェクトの経緯を、神栄アグリテック社長・福嶌篤さんに伺いました。

――― まず、どうして農業法人をつくられたのですか?

私どもの親会社(神栄株式会社)は神戸で総合商社をやっているんですが、野菜や水産物など食品も取り扱っています。2008年頃、日本で「食の安全」にまつわる事件が連続して起きたことを記憶されてる方も多いと思うのですが、神栄でも食品を商品としている会社として大きな問題意識を持ちました。本当に安全で安心して召し上がっていただける食品をお客様に提供するためには、「作るところから考えること」が重要ではないか、という意見が社内から沸き上がったのです。つまり、外部から仕入れて売るだけではなく、みずから農業に参入してみずから作ることを模索しはじめたのです。

もともと神栄は繊維事業からはじまった会社なので福井県には少なからずご縁がありまして、県からあわら市と坂井市三国町にまたがる坂井北部丘陵地という1000ヘクタールもの広大な農地を紹介していただき、そこで本格的に農業をスタートさせました。そのために設立した法人が、神栄アグリテックの前身である神栄アグリフーズ株式会社です。

 

トマト3つ

 

――― あわら市は農業参入に向いていたということですか?

実は、長野や京都などにも候補地があったのですが、あわら市の農地はさまざまな好条件がそろっていたのです。まず、鳥獣害が非常に少ないこと。そして、丘陵地であるため日照時間が長いこと。きれいな水が豊富にあること。リンゴとミカンが共存できる、つまり作物の北限と南限が重なり合うまれな気候帯であること。そして何より、農地のまわりにベテランの生産者さんがたくさんいらっしゃって、おしげもなく我々の挑戦に知恵を貸してくださったということが本当に有難かったですね。まったく他所の土地からやって来たシロウト同然の私たちと快く交流してくださって、さまざまなアドバイスを授けてくださったあわら市の生産者さんたちに、いつか何か恩返しをしたいと思っていました。そのひとつが今回の温泉トマトという、あわららしい特色をもった農産物の開発だったのです。

 

ゆのしずく

 

――― 温泉トマト開発には、どんなご苦労があったのでしょう?

プロジェクトは、神栄グループのハイテク部門も参加して2014年に立ち上がりました。トマトにストレスをかけると甘くなることは有名ですが、芦原温泉の温泉水の塩分濃度がちょうど良い濃さだったんです。ただし、トマトに与える「頃合い」が非常に繊細で難しい。何度も試行錯誤しながらやっていたんですが、どうしても安定しない。うまくいくと、トマトを切った瞬間に甘酸っぱい香りがフワッ~と立ちのぼり、そのあと口の中に甘みが広がるんですがね。2016年の春から宮崎大学の先生に監修していただき、実験データを数値化し始めてからようやく安定するようになりました。美味しいトマトの指標として、糖度と酸味のバランス、いわゆる「糖酸度比」といわれるものであることもわかり、甘い!濃い!美味い!の三拍子が揃った温泉トマトが出来上がりました。うれしかったですよ。ブランドネーミングを社内公募して『ゆのしずく』と名付けました。ちなみに一般的なトマトが糖度5~6なのに対して、温泉トマトは糖度13~14までいくこともあります。この秋に試験販売の開始を発表したところ、おかげさまでテレビや新聞でも取り上げていただき好スタートを切れました。今後はさらに品質を高め、生産量を増やしていって、あわらの新しい名産品にしたいですね。栽培方法をマニュアル化して、お世話になった生産者のみなさんとシェアしたいとも考えています。

 

干柿商品のネット販売や、とみつ金時で育てた「とみ金豚」も。

あわら市は柿の産地としても有名で、「かなづ干柿組合」という組合もあるほど。平成20年に地元の柿生産者が集まって結成されたこの組織では、平核無(ひらたねなし)と呼ばれるタネがない食べやすい柿を干柿に加工して販売しています。あわら市の柿の歴史は、昭和55年に行われた土地改良の際に柿の植樹にチャレンジしたのがきっかけ。それが広がり、生食出荷できない柿も干柿にするほど地元に根付いたそうです。この干柿、その懐かしい味わいが評判で農協関連のファーマーズマーケット等で販売されているだけでなく、あわら市商工会が運営するネット通販サイト「越前あわらブランドaセレクション(https://www.awara-brand.jp/)」でも買い求めることができ、全国にファンがいるそうです。

 

柿

干し柿多数

花咲干し柿

 

また、あわら市の農業でいちばん旬なトピックスは、とみ金豚(とみきんとん)。なんとこの豚、地元名産のとびきり甘いサツマイモ「とみつ金時」を飼料にして育った豚なんです。2017年の夏からこの挑戦に取り組んでいるのは、冨津地区の若手農家で結成したグループ「とみつ」。そもそもは近年増加してきたイノシシを農地から追い払うための豚の放牧だったのですが、「せっかくなら地元名産のとみつ金時を餌として与えてみよう」と思い付いたんだそうです。体重約40キロだった子豚は食欲旺盛で、1日10キロほどの餌を完食。半年で140~160キロと立派な体格になりました。一般販売はまだまだ先ですが、甘いとみつ金時を食べてまるまると成長した豚はどんな味わいなんでしょうか?こちらも、いまから楽しみなチャレンジです。

 

若手農家とみつ

 

 

 

あぁ、あわら贅沢。