こんにちは! 株式会社人間のライター、社領エミです。
みなさんの地元には、アホみたいに楽しい祭ってありますか?
福井県にある「あわら温泉」は、”関西の奥座敷”とも呼ばれる情緒ある温泉地。
そんな場所で年に一度、アホみたいに楽しい祭が行われているそうなんですが……。
これは……!?
これは一体何なんだー!?
人々がとにかくビッショビショになっているこの祭りは、毎年夏に開催される「あわら湯かけまつり」。この地に湧く温泉の湯を、ただただひたすらぶちまけまくる! というハイテンションなお祭です。
何それ? そんなお祭り見たことない……!
私もアホみたいに楽しみた~~~い!
はい! 芦湯(足湯)最高~!
というわけで夏真っ盛りの8月8日! 湯かけまつり当日であるこの日、私はあわら温泉にやって参りました。
早速、駅前に湯かけまつりのポスターを発見!
え!? ブルゾンちえみ……!?
と思ってよく見たら全然違う人でした。誰?
あわら温泉は、福井県北部に位置する県内随一の温泉郷。
地域内の各旅館がそれぞれ効能や泉質の異なる源泉を持っているのが特徴で、その源泉の数はなんと74本! 主に美肌効果のある湯を、ここだけでいくつも楽しむことができるのです。
かくいう私も、湯かけまつりが始まるまでのわずか2時間の間に……
地域のみなさんが集まる駅前の足湯に入ったり、
ちょっとしょっぱい源泉を飲んでみたり、
博物館みたいな温泉でたっぷり交互浴したり!
その間に、温泉の湯で温泉卵を作ったり……!
最っっ高~~~~~!!!!!
な、温泉湧きすぎパラダイスを楽しむことができました。
あわら温泉は福井県で唯一「温泉療法医が日本の名湯百選」に選ばれているということもあって泉質も良い!
私の住む京都府や、隣の大阪府・滋賀県には名湯百選にえらばれた温泉がないので、サンダーバード一本で来れる距離に良い温泉があるのはすごくありたがいですね。
ちなみに、先ほどの写真でさりげなく後ろにいたこの子は、あわら温泉のキャラクター「湯巡権三(ゆめぐりごんぞう)」を地域の方が手作りしたものだと思われます。かわいい……。
ついに参戦! テンションが高すぎるお祭り「あわら湯かけまつり」
というわけで、あっという間に夜の21時前。
こちら、祭りを控えた駅前のロータリーです!
中心に組まれたやぐらをぐるりと取り囲むように、たっぷりのお湯が入った桶が並べられております。
触ってみると、本当に暖かい!
ここに用意されているお湯はすべて純度100%の温泉なんだとか。なんて贅沢なお祭り! そしてその総湯量、なんと55トン……!
散水車まである~! 祭りが始まると、このタンクに繋がれたホースからアホほど湯が噴き出すそうです。この写真には写ってないですが、全部で二台出動していました。
ロータリーのそばからは、太鼓の音がドンドンと祭りの気分を盛り上げます!
開始5分前になると、あたりは人でいっぱいに。なんだここは! USJか!
それぞれが洗面器や水鉄砲など、湯をかけるためのさまざまな武器を手に持っています。
私は水鉄砲を持ってきたのですが、洗面器は一発の戦闘力が高そうで羨ましい……!
そしてついに、開始時間の21時!
「2017年、湯かけまつり! スタートです!」
と、ついに司会者から合図が。その瞬間……
あたりは一瞬にしてカオスにー!
「ワー!」「キャー!」などの叫び声が響く中、堰を切ったように大量の湯がまかれはじめます。
豪雨が降ってるみたいですが、違うんです。これ全部温泉水なんです!
会場を練り歩く神輿からは、ホースで勢いよく湯が撒かれます。こんな神輿見たことないぞ!
やぐらからも容赦なく恵みの湯が。
なんだこれ……なんなんだこの祭り……
めちゃめちゃ楽しい~~~!!
開始からわずか1分で上から下まで下着から持ち物から何からズブ濡れになってしまいましたが、そんなの関係ない! どうでもいい~!
湯をかけるだけなのにこんなに楽しいの!? 走り回って湯を浴びて、私、今年一番童心に返っております!
一歩歩けば地元の子供達が、見ず知らずの私をキャッキャキャッキャと追い回して湯をかけてくる始末。こら! 普通なぁ、知らない人に湯をかけちゃダメなんだぞ、君!!
ダメって言ってるやろが~!!!
とにかくずぶ濡れになるので、シャンプーの泡も流せるんじゃないか……と試してみたところ、
めちゃくちゃ綺麗に泡が落ちました。なんじゃそりゃ!
湯をかけて、かけられて、そんなこんなで開始から怒涛の20分!
「今年の湯かけまつり! これにて終了でーす!」
司会の方の掛け声により、湯かけまつりは幕を閉じました。
初代実行委員長の美濃屋啓晶さんに聞く。地域おこしの本質とは?
いやー、すごかったです、湯かけまつり!
大人も子供も大騒ぎ、とにかくはしゃいだ20分間は私の記憶に強烈な爪あとを残しました。
だってこれ、ほぼ見ず知らずの人とやってこんなに楽しいんですよ! 全部水じゃなくて温泉だし! しかもこの激しすぎるイベント、駅前でやってるんですよ~!?
もう一度体験したい。こんな激しい祭り、日本中にそうそう無い!
それだけに、心の中に疑問がふつふつと湧き出てきます。
これって、伝統行事なの?
一体、誰が何のためにやってるの?
というか、こんなことして本当にいいの? まちのみんなに怒られないの……?
というわけで、興奮冷めやらぬ翌日。
湯かけまつりの初代実行委員長であり、旅館「みのや泰平閣」の跡取りである美濃屋 啓晶さんにお話を聞くことに!
「湯かけまつり開催の発端」から、最終的には「地域おこしの本質」まで。ものづくりにも通じる大変興味深い話を伺うことができましたので、皆様どうぞ最後までお付き合いください。
合併したまちが団結するため、「湯かけまつり」は作られた
社領「湯かけまつり、ものすごく楽しかったです! 久しぶりにアドレナリンがだだ漏れになりました!」
美濃屋「ありがとうございます。しかし、20分で終わってしまったので……。昨夜も『来年、30分は行きたいな』と話していたところです」
社領「30分となると単純計算で80トンですね。どのくらいの量なのか全く想像がつかん……!
あと気になってたんですが、」
社領「誰なんですかこれ?」
美濃屋「真ん中は市役所の職員で、両隣はあわらにある旅館の後継ぎです(笑)
湯かけまつりのポスターは毎年いろいろパロディをしてるんですよ。去年はこんなの」
社領「いや〜、ふざけてるなぁ〜……!
この湯かけまつり、開催のきっかけは何だったんでしょうか?」
美濃屋「12年前、僕が住んでいた”芦原町(あわらちょう)”ととなり町の”金津町(かなづちょう)”が合併したことがきっかけなんです」
12年前、福井県の金津町と芦原町が合併して「あわら市」は誕生しました。
その当時、元 金津町に住んでいた人々は、自分たちの愛する「金津町」という地名がなくなったことに複雑な心境だったそう。
しかし、二町が合併するとなると、まちのあらゆる機能も一緒になります。となれば、二つのまちはより団結しなければなりません。
そんな時に美濃屋さんが提案したのが「湯かけまつり」だったのです。
美濃屋「合併したふたつの町が今後も仲良くやっていくには、やはり”何かを一緒にやり遂げること”が重要だろうと思っていて。
そんな時、テレビでスペインのトマト祭りを見て『これだ!』と思い、湯かけまつりを提案しました」
社領「あー! あの賑やかさ、確かに似てますね!」
美濃屋「はい。賑やかさも魅力のひとつですが、何よりその地域のアピールすべき『トマト』という本物を使った祭というところに惹かれまして」
社領「なるほどなぁ、あわらの本物は『湯』なわけですね」
美濃屋「また、ロータリーを回っていた『太鼓の山車』は金津町の伝統文化なんです」
▲まつり当日、ロータリーを回っていた金津町の「太鼓の山車」。
社領「芦原町の『湯』と金津町の『山車』、ふたつの本物を使った祭りが『湯かけまつり』なのか。ただはしゃぐだけの祭じゃなかったんだ……!」
▲第一回目の湯かけまつりの様子
そうして最初に行われた湯かけまつりは、美濃屋さんの予想を超える大盛況だったそう。
その後の11年間で湯かけまつりは湯量も増え、やぐらも建て、散水車も使い、地域の方々の協力のもとに年々規模を増しています。
大成功の秘訣は何なのでしょうか? 10年間実行委員会の中心となり活動してきた美濃屋さんに、「湯かけまつりで大切にしていること」を聞いてみました。
集客は二の次。地域で楽しめるキャパシティを超えないこと
社領「かなり激しい祭ですが、地域の反対などは無かったんですか?」
美濃屋「開催前は、綿密に地域に挨拶して周りましたね。とにかく積極的に『一緒に楽しもう』と呼びかけて、『こんなに楽しい祭が、自分たちのものなんだ』と理解してもらうことに努めました」
社領「地元がそういうマインドだと、外から来る人も気持ち良く迎えられますもんね。湯かけまつりは地元の子ども達が多くて、懐かしい感じというか、すごく心地よかったです!」
美濃屋「地元の人が楽しめるキャパシティは超えたくないんですよ。祭りはみんなで一緒に作りたい。地元の祭が他人事になっちゃうって、寂しいじゃないですか」
▲地元の方々も多く参加される湯かけまつり。
美濃屋「また、裏テーマとして『子ども達にあわらを誇りに思ってほしい』という思いがあったんです。地域の未来を作るのは、今の子どもたちだから」
社領「ごもっともです……! 子供に地元を好きになってもらう活動っていろいろありますが、結局子供の記憶に一番強烈に残るのって、『ハチャメチャに楽しいこと』だと思うんですよ。そこから地域おこしにアプローチするのは、物凄く正しい……!」
美濃屋「はい。僕はほかにも、「湯けむり創生塾」というまちづくり団体の一員として色々町おこしに携わってきましたが、メンバーはみんな、やりたいことを楽しくやってるんですよ。そこは大事にしてて。
楽しんでる大人を見せた方が、子供達も地域の仕事に憧れを持ってくれるかなと」
▲湯けむり創生塾が手がけるレンタサイクル。福井県警に特別に許可をとり、公道でも二人乗りができる特別仕様。
「カップルが来る温泉地、彼氏が運転して二人乗りするのがロマンでしょ!」とのこと。
▲私が昨日食べたあわら温泉名物「蒸っしゅプリン」の開発も、創生塾の事業のひとつ。美濃屋さんもプリンが大好きなんだそうです。
社領「ただ、そうは言っても楽しいだけで続かず終わっていくイベントもあると思うんですよ。
湯かけまつりは、死ぬほどハジけてるのにもう10年以上も続いていますよね。続けるための秘訣って何なんでしょうか?」
美濃屋「尊重すべきところを、きっちり決めて守ることです」
社領「尊重すべきところ……。」
美濃屋「はい。イベントの7割は、もう全力でやりたいように、自由に楽しく遊べばいいなと。
その中に3割だけはブレない軸を設けておくんです。湯かけだと、金津の文化をきちんと見せる、芦原の湯の恵みに感謝する、といったところ」
社領「なるほど。そうすることで、巻き込める人の層はより厚くなりますね。
『ブレない軸』は企画をする上でもよく耳にします。どんな物事も長く続けていくためには『軸』が大切なんだなぁ……。」
美濃屋「そうだ。次は、フェスをやろうと計画してて」
社領「フェス!? あの音楽の!?」
美濃屋「そう。山に囲まれてて音響も良さそうな湖が近くにあるんです。近所の花火大会と併せて、フェスのフィナーレを花火で飾れれば面白いなと。すでに音楽レーベルと話を進めてて」
社領「めちゃめちゃ素敵ですね!」
美濃屋「ただそれも、『フェスに来ることで僕らのまちの良さを知ってもらう』ことを目標にして動いています。今後も来てもらえるように」
美濃屋「やるなら一時の流行ではなく、未来に残っていくことを創り上げたい。
一昨年、湯かけまつりの実行委員会の中心をを若い人たちに引き継ぎました。湯かけまつりが、それぞれの世代らしくどんどん形を変えて、100年続けばいいなと思って。
僕らが始めた小さな祭でも、100年続けば伝統になるんですよ! そう思うと、楽しくなってこないですか?」
未来を見据えた地域づくりを、大人が全力で楽しむということ
楽しすぎた湯かけまつり。まちづくりの第一線で活躍する美濃屋さんのお話には、どんな場所にも通じる「地域おこしの本質」がありました。
未来に残す行動をすること。自らが楽しんで「コト」を起こしていくこと。
次の世代がそんな大人に憧れて、自らの意思で地域おこしに参加するようになったなら、それってすごく健全なバトンの渡し方じゃないでしょうか?
私は今、地元を離れて暮らしています。
地元にいた頃は、毎年初夏に行われる地域の祭には一切参加しないような子供でした。遠くからだんじりの音色を聴いているだけで、将来かかわりたいと思うなんてもってのほか。
でもこんな、誰だって振り向かせちゃうほど楽しい祭があったなら。
地元にこんな大人がいたなら、いま私はどこに住んでいただろうか?
美濃屋さんのお話を聞くうち、そんなことを思わさせられました。
というわけで、あわら温泉の湯かけまつりは毎年8月8日と9日!(8日・9日というのは、温泉が「わく」にちなんでいるそう)
毎年、曜日にかかわらず開催しております! 大阪からサンダーバードで3時間。アドレナリン大放出のこの祭、みなさんもぜひ行ってみてくださいね~!
美濃屋さん、あわらのみなさん、ありがとうございました!