肥沃な大地が広がるあわら市は、農産物の産地としても知られています。
北陸地方では比較的温暖な気候風土も農作物の栽培に適しており、
野菜や果物のおいしさをじっくりと育んでいます。
そんなあわら市の農産物から、「とみつ金時」と「完熟いちご」をご紹介します。
いずれも、とれたてのおいしさにこだわった格別の味わい。
産地にお邪魔して、おいしさの秘密と生産者の取り組みをレポートしました。
さつまいもの人気ブランド「とみつ金時」
●農家の後継者でグループを結成、土づくりから取り組む。
甘みが強く、ほくほくとした食感がおいしい「とみつ金時」。福井県内では、地元を代表するさつまいもブランドとしておなじみで、県内外のシェフやパティシエの間でも、そのおいしさは注目されています。
そのふるさとは、福井県の最北端、日本海に面した丘陵地に位置するあわら市富津地区。一帯は赤土を含む水はけの良い砂地で、農作物が育つには最適な土壌です。
とみつ金時は、「エコフィールドとみつ」という農家の後継者グループが中心となって生産しています。グループの一員である福島農園の福島一欽さんは、「これまでと同じ農業のやり方に危機感を持った後継者たちが集まり、栽培方法や環境のことなどを話し合いながら、さつまいもづくりに取り組んでいます」と話します。化学肥料の使用を減らし、2〜3年に一度緑肥を植えて土壌を蘇らせるなど、環境に配慮した土づくりから手掛けているのもその一環。安心とおいしさを追求しています。
福島農園の福島一欽さん。農場の向こうには日本海が広がり、風車が回るのどかな環境です。
「エコフィールドとみつ」のメンバー。左から新井ファーム、福島農園、上田農園の後継者。
選別やひげとりは、さつまいもを傷つけないよう手袋をして1本1本手作業で。
●おいしさを保つ「キュアリング貯蔵」でほぼ1年間出荷を可能に。
とみつ金時のおいしさの秘密は、「キュアリング貯蔵」と呼ばれる貯蔵方法にもあります。これは、収穫した土付きのとみつ金時を室温35度、湿度95%以上の倉庫に約90時間置き、その後、一気に12度まで温度を下げ、湿度を80%にして保存するという貯蔵法。温度と湿度を徹底管理することで表面がコルク化し、適度な水分を含んだまま、おいしい状態を長期間維持できるのです。土のついたまま保存するのもポイントです。さつまいもの皮はデリケートなので、洗うと表面に傷が付き、傷みの原因に。土付のままだと土からも栄養を補給でき、より鮮度の良い状態を保てるのです。
さつまいもの収穫時期は8月下旬~11月上旬ですが、このキュアリング貯蔵により、とみつ金時は、ほぼ一年中とれたてのおいしさのまま、出荷されています。
キュアリング貯蔵の倉庫内。温度・湿度管理を徹底しています。
2011年、エコフィールドとみつで共同建設した「甘しょキュアリング貯蔵施設」。約500トンを貯蔵しています。
●ほくほくした甘さを、シンプルな焼き芋で!
とみつ金時は、加熱するとより一層甘みが増すので、焼き芋で食べるのがおすすめです。180度のオーブンでじっくり焼くと、とみつ金時ならではの、しっとりほくほくとした食感と甘みをダイレクトに味わえます。じんわりと口いっぱいに広がる甘さは、まさに天然のスイーツ。なんともいえない贅沢です。
フルーツラインで味わう、あわらの「完熟いちご」
●摘みたてをその場で味わえる
あわら市に広がる丘陵地は果物の栽培にも最適な土壌で、県内でも有数のフルーツ産地です。丘陵地帯を東西に横断する広域道路は通称「フルーツライン」と呼ばれ、沿線にはブルーベリーやスイカ、梨、メロンなど多彩な果樹園が点在しています。
2012年にオープンした「農楽里(のらり)」は、フルーツライン沿いに建つ体験型の観光いちご園。摘みたての完熟いちごを手軽に味わえると人気を集めています。人気の理由は、高設栽培。ビニールハウスの中に入ると、栽培棚に植えられた約5400株のいちごがずらりと並び、しゃがまずに摘み取ることができるのです。子どもならちょうど目線の高さ。色や形、大きさなどを自分で確かめながら、気に入ったいちごをその場で食べることができます。
フルーツラインを車で走っていると、のどかな丘陵地の中に見えてきます。
栽培棚を使った高設栽培で、しゃがまずに目の前のいちごを摘み取れ、衛生面でも安心。
摘みたての完熟いちご。しっかりした実をかじると、口いっぱいに甘さが広がります。
ミツバチによる自然受粉を行っています。白い花のまわりを飛ぶ姿が愛らしい。
●時期ごとに違うおいしさを。
農楽里で栽培している品種は「紅ほっぺ」。手で摘みとってもつぶれにくいしっかりとした実と、濃厚な甘みが特徴です。シーズンは2月から5月頃。農楽里を運営する(有)あわら農楽ファームの専務取締役 舘 恭弘さんによると、いちごは時期によって味が変わるのだとか。「1〜2月頃の寒い時期は10日間くらい時間をかけて色づき、甘みも濃くなりますが、4〜5月頃の暖かい時期には3日ほどで熟し、さわやかな甘みになります」。そのため、そのため、その時期のおいしさを味わおうと、毎月訪れるリピーターもいるといいます。
地元でも親しまれており、今年2月に行われた開園式では地元保育園の園児たち約40人が訪れ、いちご摘みを体験した後、いちご大福づくりにもチャレンジしました。
農楽里では、ハウスの暖房に使用する燃料は福井県産の間伐材による木質ペレットを使用。地球環境にも配慮しています。あわらの風土に根ざしたいちご園。摘みたてを好きなだけ味わえるという、フルーツ王国ならではの贅沢を体験できます。
農楽里を運営する(有)あわら農楽ファームの専務取締役 舘 恭弘さん。
ハウスの燃料に使用しているペレット燃料。間伐材を利用し、環境にも配慮しています。
園内では完熟いちごを加工したジャムも販売。